インディペンデント通信

言葉の持つ力 「大野裕美のプロジェクト通信」

名古屋市立大学大学院医学研究科 大野裕美

皆様、今年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。 新年初のコラムは、言葉の持つ力・イメージについて取り上げたいと思います。昨年の8月1日付で、がん診療連携拠点病院等の整備指針の改定が、都道府県知事に通知されました。このたびの改定の特徴のひとつに、地域がん診療連携拠点病院の「高度型」の廃止があります。廃止理由は、定義が不明確であることから結果として地域偏在を招きやすいことや、患者に与える印象と診療機能の実態が異なるという指摘によるものです。

 確かに、「高度」という形容によって私達は、他よりも秀でた特別なものを享受できると思ってしまいます。似たようなエピソードとして、がんの「標準治療」も同様です。国立がん研究センター・がん情報サービスのホームページでは、「標準治療とは、科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であり、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療」と用語の説明が掲載されています。このような説明書きがあれば理解できますが、知らなければ言葉のイメージが先行しますので、品質のランクを示す場合に用いられる「上中下」や「松竹梅」等のように、「標準」が何か物足りなく、「高度」が最も優れているのではないかという期待が生じやすくなります。

 その用語が与える言葉のイメージは、私たちの思考に大きな影響を与えます。例えば、「終末期→人生の最終段階」「アドバンスケアプランニング→人生会議」等も、その言葉がもたらす分かりにくさやマイナスのイメージを払拭するために、新たなネーミングによって普及・啓発を試みています。特に、専門用語は一般に分かりにくいことが多く、医療職と患者の間で誤解が生じることもよくありますので、用語の洗練だけでなく分かりやすさの工夫は必要だと思います。そのためにも対話が不可欠です。双方が伝えたつもりの一方通行にならないように、相手を理解したい・しようとする姿勢が欠かせません。私も仕事では、子どもでも分かるような伝え方を常に意識しています。専門用語を使って難しく伝えることよりも、子どもや初学者に分かるように伝えることは実に難しいのですが、本当に伝えたいことは何かと発するメッセージの洗練作業につながり、自身の姿勢を見つめ直すよいプロセスだと思っています。余談ですが、行政用語は口語体でないことも多く、無機質で分かりにくいと私は個人的に感じています(この通信では、そうした社会保障関連の用語を分かりやすく説明しているので助かりますね)。言葉の持つイメージ・力について、立ち止まって考えてみることは社会生活を送るためにも重要なことだと思います。

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